【1週目】新人キリトが“キャストの右腕(仮)”になるまで
2025/5/16 17:00
初めての職場は、思っていたよりも静かだった。
エアコンの音、キーボードのクリック音、流れてくる音楽。そして何より、先輩たちの柔らかな空気が印象的だった。
「もしかして、今日からのキリトさん?空いてるところにどうぞ」
静かに声をかけてくれたのが、遠藤先輩。落ち着いた雰囲気で、自然と緊張がほどけた。
指示に従い、シティヘブンを眺める。
女の子たちのプロフィール、日記、写真……見慣れていたはずなのに、内側から見るそれは、まるで別世界のようだった。
「まずはページを見ることから」──単純な業務。
でも、“ただの新人”では終わりたくないという気持ちが芽生えはじめていた。
「女の子の時間回し、少しずつしてみる?」
遠藤先輩の声に、思わず背筋が伸びる。
予約が確定すると、次の予約可能時間に“時間を回す”。 一見単純だけど、1分の判断がキャストの収入や一日を左右する。
女の子の顔と名前もまだ一致していない。慎重になればなるほど、不安が募る。
それでも、任せてくれたことが嬉しかった。その期待に応えたいという気持ちが、前に進ませてくれた。
配車、電話応対、WEB更新。
どれも初めてで戸惑うことばかり。それでも、遠藤先輩はいつも落ち着いていた。
「キリトさん、焦らず一つずつやれば大丈夫ですよ。あと…言い訳をしない姿勢、すごくいいと思います」
そう言って、自分のデスクに戻っていく姿に、静かな信頼を感じた。
予約ミスをしてしまった。女の子に迷惑をかけてしまい、怒らせてしまった。
自分の中の「何か」が崩れそうだった。
誰からも責められなかった。だからこそ、自分の中の後悔がより重たかった。
帰り際、遠藤先輩が静かに声をかけてくれた。
「うまくいかない日もあると思う。でも、明日からまたやっていきましょう」
「失敗を恐れず、できることを一緒に増やしていければ、それで十分ですよ」
それは叱責ではなかった。“信じる”という形の、たった一言のエールだった。
女の子の名前が自然と口から出るようになり、電話の声も以前ほど震えなくなってきた。
誰かに「認められたい」と思ったわけじゃない。でも、今の自分を少しだけ誇れるようになっていた。
強くなくてもいい。完璧じゃなくてもいい。
この場所で、信頼される人間として、少しずつ“自分の重さ”を作っていけたらいい。
「自分にもできるかも」と思った方へ。
あなたの“最初の一歩”を、僕たちはいつでも待っています。