
むかしむかし――といっても、ほんの昨日のこと。
風俗店で働く二人がおりました。
一人は、まだ入って間もない新入社員のS。
もう一人は、中堅の頼れるスタッフA。
その日は一日、嵐のように忙しく、
ふたりとも心も体もくたくた。
「Sくん、今日は一杯だけいこうか」
Aがそう言うと、Sはぱっと顔を輝かせました。
お店を出て、暖簾をくぐると――
気が付くと目の前には、ふわふわの泡をのせた黄金色のビールが二つ。
「かんぱーい!」
カチン、と音が響き、泡がほんの少し揺れました。
一口飲むと、喉をすべり落ちる冷たさが、
今日一日の疲れをすーっと連れていきます。
S君は言いました…
「今日の仕事、本当に緊張しました…」
「でも、Aさんがフォローしてくれて…助かりました」
Aは笑いながら、やさしい声で言いました。
「俺も最初はそうだったよ。でもね、
こうして少しずつ、自分の力でできることが増えていくんだ」
ビールはいつの間にか二杯目。3杯目。
話は笑い声と一緒に、夜の街に溶けていきました。
その帰り道、Sの胸の中には、
あたたかな自信と「また明日もがんばろう」という気持ちが、
ほのかに灯っていたのでした。
めでたし、めでたし。
