今日の空は、ちょっと曇ってて、まるで冷蔵庫の扉が少しだけ開いてるみたいな、そんな肌寒さを感じさせる午後だった。まさに、かき氷の私にはぴったりの日。氷の粒一つひとつが、空気の中でゆっくりと溶けて、時間がまどろんでいく感じ。ああ、なんて静かで、優しい日なんだろう。
私の一日は、いつも冷凍庫の中から始まる。キーンとした静けさの中で、ただじっと存在している。それが私の朝の習慣。冷たいということが私のアイデンティティだし、溶けてしまうことが、ある意味で人生のゴールでもある。
今日は、いちごシロップをかけられた。嬉しい。甘酸っぱくて、ちょっとだけキュンとする。あのシロップが私の上を滑っていくとき、私はちょっとだけ、恋をしている気分になる。だって、どんなに冷たくても、あの色と香りが私を包むと、心の中に夏がやってくるから。
けれど、心地よいのも束の間。太陽の光が私に触れると、体の端からじわじわと溶けていく。ああ、これは運命。逃れられないもの。でも、不思議と怖くない。誰かの口の中で、私が「ああ、美味しい」と言ってもらえる瞬間、それが私の存在の証なんだから。
少しずつ、体が小さくなっていく。スプーンの重さ、ぬるい手のひらの熱、そんなものを感じながら、私は今日も少しずつ、誰かの「夏」になっていく。
そういえば、隣にいたメロン味の子が言ってた。
「かき氷ってさ、すぐに消えちゃうけど、その一瞬のきらめきがいいんだよね」って。
うん、私もそう思うよ。
短くて、冷たくて、甘くて。
それでも、誰かの記憶に残るような、そんな存在でいられたなら、私は満足。
さて、そろそろ本当に終わりが近いみたい。
スプーンが最後のひと口をすくっていく。
じゃあ、またいつか、夏のどこかで会いましょう。
かき氷より