「なんで白、着ないんですか?」
その質問に、お肉ちゃんは少し笑って答える。
「いやぁ、なんか…こう、発光してまうんよね、ワシだけ」
身長193センチ、体重166キロ。
街を歩けば、子どもに「すごいー!」と指をさされるサイズ感。
そんな彼が白Tシャツを着ると──
まるで歩くスクリーン。反射する照明。光の権化。
「白って、膨張色やん?」
本人はさらっと言うけれど、鏡の前でこっそり試したこともある。
胸にピチッと張りついて、
腹のふくらみは“臨月越え”の自己主張。
背中には汗の地図。しかも浮き出た汗が、やけに目立つ。
「あとな、焼き肉行ったら…終わりやねん」
肉汁・タレ・時には謎のソース。
白Tシャツは、まるで“汚れを集めるキャンバス”。
座るたびにどこか引っかけ、食べるたびに何かこぼし、
気づけば芸術作品。
静かな美意識もある。
「白は、潔さが必要や」
そうつぶやいて、今日も黒やネイビーのTシャツを選ぶ。
でもたまに、クローゼットの奥の、
タグすらついたままの白Tにそっと目をやる。
「痩せたら着よう思て、買うてんけどなぁ…」
──それは、着ないTシャツではなく、
“いつか着たいTシャツ”なのかもしれない。